Day 1: ネットワークの基礎とOSIモデル
今日学ぶこと
- コンピュータネットワークとは何か
- ネットワークの種類(PAN、LAN、MAN、WAN)
- OSI参照モデルの7つの層
- データのカプセル化とPDU
- TCP/IPモデルとOSIモデルの比較
コンピュータネットワークとは何か
コンピュータネットワークとは、2台以上のコンピュータが通信媒体を介して接続され、データやリソースを共有できる仕組みです。私たちが日常的に使うインターネット、社内メール、ファイル共有などはすべてネットワーク技術の上に成り立っています。
ネットワークの基本的な構成要素は以下の通りです。
| 構成要素 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| ノード | ネットワークに接続されたデバイス | PC、サーバー、ルーター |
| メディア | データが伝送される媒体 | LANケーブル、光ファイバー、無線電波 |
| プロトコル | 通信のルール・手順 | TCP/IP、HTTP、DNS |
| サービス | ネットワークが提供する機能 | ファイル共有、メール、Web |
flowchart LR
subgraph Network["コンピュータネットワーク"]
A["PC A"] <-->|"LANケーブル"| S["スイッチ"]
B["PC B"] <-->|"LANケーブル"| S
S <-->|"光ファイバー"| R["ルーター"]
R <-->|"インターネット"| Cloud["クラウド"]
end
style Network fill:#3b82f6,color:#fff
style Cloud fill:#8b5cf6,color:#fff
ネットワークの種類
ネットワークはその規模によって分類されます。
PAN(Personal Area Network)
PANは、個人の身の回りのデバイスを接続するネットワークです。通信範囲は数メートル程度で、BluetoothやUSBなどが使われます。
- スマートフォンとワイヤレスイヤホンの接続
- PCとマウス・キーボードのBluetooth接続
LAN(Local Area Network)
LANは、建物内やオフィスフロアなど、限られたエリア内のネットワークです。高速で低遅延な通信が特徴です。
- 企業のオフィスネットワーク
- 家庭内のWi-Fiネットワーク
- 学校のコンピュータ教室
MAN(Metropolitan Area Network)
MANは、都市規模のネットワークです。複数のLANを接続して構成されます。
- ケーブルテレビネットワーク
- 大学のキャンパスネットワーク(複数棟を接続)
WAN(Wide Area Network)
WANは、広範囲(国家間・大陸間)に及ぶネットワークです。インターネットは世界最大のWANです。
- インターネット
- 企業の拠点間ネットワーク
flowchart TB
subgraph Scale["ネットワークの規模"]
direction LR
PAN["PAN\n数メートル"]
LAN["LAN\n建物内"]
MAN["MAN\n都市規模"]
WAN["WAN\n国・大陸"]
end
PAN --> LAN --> MAN --> WAN
style PAN fill:#22c55e,color:#fff
style LAN fill:#3b82f6,color:#fff
style MAN fill:#8b5cf6,color:#fff
style WAN fill:#ef4444,color:#fff
style Scale fill:#1e293b,color:#fff
| 種類 | 範囲 | 速度 | 例 |
|---|---|---|---|
| PAN | ~数メートル | 低〜中 | Bluetooth、USB |
| LAN | ~建物内 | 高速(1Gbps〜) | Ethernet、Wi-Fi |
| MAN | ~都市 | 中〜高速 | ケーブルTV |
| WAN | 国〜大陸 | 低〜高速 | インターネット |
OSI参照モデル
OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルは、国際標準化機構(ISO)が策定したネットワーク通信の概念モデルです。通信機能を7つの層(レイヤー)に分割して整理しています。
このモデルがあることで、異なるベンダーの機器やソフトウェアが相互に通信できるようになりました。
flowchart TB
subgraph OSI["OSI参照モデル"]
L7["第7層:アプリケーション層"]
L6["第6層:プレゼンテーション層"]
L5["第5層:セッション層"]
L4["第4層:トランスポート層"]
L3["第3層:ネットワーク層"]
L2["第2層:データリンク層"]
L1["第1層:物理層"]
end
L7 --> L6 --> L5 --> L4 --> L3 --> L2 --> L1
style L7 fill:#ef4444,color:#fff
style L6 fill:#f59e0b,color:#fff
style L5 fill:#f59e0b,color:#fff
style L4 fill:#8b5cf6,color:#fff
style L3 fill:#3b82f6,color:#fff
style L2 fill:#22c55e,color:#fff
style L1 fill:#22c55e,color:#fff
style OSI fill:#1e293b,color:#fff
第1層:物理層(Physical Layer)
物理層は、ビット列を電気信号、光信号、電波などの物理的な信号に変換して伝送する層です。
- 役割: 0と1のビット列を物理的な信号に変換
- 関連機器: ケーブル、リピーター、ハブ
- プロトコル/規格: Ethernet(物理仕様)、USB、Bluetooth(物理仕様)
- 例: LANケーブル内を流れる電気信号
第2層:データリンク層(Data Link Layer)
データリンク層は、同一ネットワーク内の隣接ノード間でのフレーム伝送を担当します。エラー検出やMACアドレスによるアドレッシングを行います。
- 役割: フレームの生成、MACアドレスによる機器識別、エラー検出
- 関連機器: スイッチ、ブリッジ
- プロトコル: Ethernet(MAC)、PPP、ARP
- 例: スイッチがMACアドレスを見てフレームを適切なポートに転送
第3層:ネットワーク層(Network Layer)
ネットワーク層は、異なるネットワーク間でのパケット転送(ルーティング)を担当します。IPアドレスによる論理的なアドレッシングを行います。
- 役割: ルーティング、IPアドレスによる論理アドレッシング
- 関連機器: ルーター、L3スイッチ
- プロトコル: IP、ICMP、OSPF、BGP
- 例: ルーターがIPアドレスを見て最適な経路にパケットを転送
第4層:トランスポート層(Transport Layer)
トランスポート層は、エンドツーエンドの信頼性のある通信を保証します。ポート番号でアプリケーションを識別します。
- 役割: 信頼性のあるデータ転送、フロー制御、ポート番号管理
- 関連機器: ファイアウォール(一部)
- プロトコル: TCP、UDP
- 例: TCPが3ウェイハンドシェイクで接続を確立し、データを確実に届ける
第5層:セッション層(Session Layer)
セッション層は、通信のセッション(開始・維持・終了)を管理します。
- 役割: セッションの確立、維持、終了
- プロトコル: NetBIOS、RPC
- 例: Webアプリケーションのログインセッション管理
第6層:プレゼンテーション層(Presentation Layer)
プレゼンテーション層は、データの表現形式の変換(エンコーディング、暗号化、圧縮)を担当します。
- 役割: データの変換、暗号化、圧縮
- プロトコル: SSL/TLS(暗号化部分)、JPEG、ASCII、UTF-8
- 例: HTTPSでのデータ暗号化、画像フォーマットの変換
第7層:アプリケーション層(Application Layer)
アプリケーション層は、ユーザーやアプリケーションに直接サービスを提供する層です。
- 役割: ユーザーアプリケーションへのネットワークサービス提供
- プロトコル: HTTP、HTTPS、FTP、SMTP、DNS、SSH
- 例: Webブラウザでのページ閲覧、メール送信
データのカプセル化
データが送信者から受信者に届くまで、各層でヘッダー(場合によってはトレーラー)が追加されます。この過程を**カプセル化(Encapsulation)と呼びます。各層のデータ単位をPDU(Protocol Data Unit)**と呼びます。
flowchart TB
subgraph Encapsulation["カプセル化の流れ"]
D["データ\n(アプリケーション層)"]
Seg["セグメント/データグラム\n(トランスポート層)"]
Pkt["パケット\n(ネットワーク層)"]
Frm["フレーム\n(データリンク層)"]
Bit["ビット\n(物理層)"]
end
D -->|"TCPヘッダ追加"| Seg
Seg -->|"IPヘッダ追加"| Pkt
Pkt -->|"MACヘッダ+トレーラー追加"| Frm
Frm -->|"電気信号に変換"| Bit
style D fill:#ef4444,color:#fff
style Seg fill:#8b5cf6,color:#fff
style Pkt fill:#3b82f6,color:#fff
style Frm fill:#22c55e,color:#fff
style Bit fill:#f59e0b,color:#fff
style Encapsulation fill:#1e293b,color:#fff
| OSI層 | PDU名 | 追加される情報 |
|---|---|---|
| アプリケーション層 | データ | アプリケーション固有のヘッダ |
| トランスポート層 | セグメント(TCP)/ データグラム(UDP) | ポート番号、シーケンス番号 |
| ネットワーク層 | パケット | 送信元/宛先IPアドレス |
| データリンク層 | フレーム | 送信元/宛先MACアドレス、FCS |
| 物理層 | ビット | 電気信号/光信号/電波 |
受信側では、逆の手順で各層のヘッダーを取り除いていきます。これを**非カプセル化(Decapsulation)**と呼びます。
TCP/IPモデルとの比較
実際のインターネットで使われているのは、OSIモデルではなくTCP/IPモデル(4層モデル)です。OSIモデルは概念的な参照モデルとして、TCP/IPモデルは実装モデルとして使い分けられます。
flowchart TB
subgraph TCPIP["TCP/IPモデル"]
T4["アプリケーション層"]
T3["トランスポート層"]
T2["インターネット層"]
T1["ネットワークアクセス層"]
end
subgraph OSI["OSI参照モデル"]
O7["アプリケーション層"]
O6["プレゼンテーション層"]
O5["セッション層"]
O4["トランスポート層"]
O3["ネットワーク層"]
O2["データリンク層"]
O1["物理層"]
end
T4 -.- O7
T4 -.- O6
T4 -.- O5
T3 -.- O4
T2 -.- O3
T1 -.- O2
T1 -.- O1
style TCPIP fill:#3b82f6,color:#fff
style OSI fill:#8b5cf6,color:#fff
| TCP/IPモデル | OSIモデル | 主なプロトコル |
|---|---|---|
| アプリケーション層 | 第5〜7層 | HTTP、DNS、SMTP、FTP |
| トランスポート層 | 第4層 | TCP、UDP |
| インターネット層 | 第3層 | IP、ICMP、ARP |
| ネットワークアクセス層 | 第1〜2層 | Ethernet、Wi-Fi |
なぜ2つのモデルがあるのか
- OSIモデルは教育・設計に適した理論的モデル。層が細かく分かれているため、各機能の役割が明確
- TCP/IPモデルは実際のインターネットプロトコルに基づく実装モデル。シンプルで実用的
現場ではTCP/IPモデルが使われますが、ネットワークの概念を学ぶ際にはOSIモデルの7層で理解することが重要です。
まとめ
本日の学習内容
| トピック | ポイント |
|---|---|
| コンピュータネットワーク | デバイス間でデータやリソースを共有する仕組み |
| ネットワークの種類 | PAN → LAN → MAN → WAN の順に規模が拡大 |
| OSI参照モデル | 7層に分割された通信の概念モデル |
| カプセル化 | 各層でヘッダーを追加してデータを包む仕組み |
| TCP/IPモデル | 4層の実装モデル。実際のインターネットで使用 |
キーポイント
- OSIモデルは下から上へ: 物理層 → データリンク層 → ネットワーク層 → トランスポート層 → セッション層 → プレゼンテーション層 → アプリケーション層
- 各層のPDUを覚える: ビット → フレーム → パケット → セグメント → データ
- TCP/IPモデルは4層: OSIの上位3層をアプリケーション層に、下位2層をネットワークアクセス層にまとめている
- カプセル化と非カプセル化: 送信時にヘッダーを追加し、受信時に取り除く
練習問題
基礎レベル
- OSI参照モデルの7層を下から順に列挙してください。
- 以下のデバイスがOSIモデルのどの層で動作するか答えてください。
- ハブ
- スイッチ
- ルーター
- PAN、LAN、MAN、WANをそれぞれ一言で説明してください。
中級レベル
- 以下のプロトコルがOSIモデルのどの層に属するか答えてください。
- HTTP
- TCP
- IP
- Ethernet
- あなたがWebブラウザで
https://example.comにアクセスする際、データがカプセル化される過程を各層のPDU名とともに説明してください。 - OSIモデルとTCP/IPモデルの違いを3つ挙げてください。
チャレンジレベル
- ある社内ネットワークで、PC AがPC Bにファイルを送信します。この通信に関与するOSIモデルの各層の役割を、具体的なプロトコルや技術を挙げて説明してください。
- 「OSI参照モデルは理論的には優れているが、実際のネットワークではTCP/IPモデルが使われている」理由を考察してください。
- ネットワークエンジニアが障害対応する際、OSIモデルの各層を使ってどのように問題を切り分けるか、具体的なトラブルシューティング手順を提案してください。
参考リンク
次回予告
Day 2: LANとWAN では、Ethernet、MACアドレス、スイッチとハブの違い、VLAN、WAN技術、ネットワークトポロジーなど、LANとWANの具体的な仕組みについて学びます。